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みんなが幸せになる「ものづくり」

株式会社サキノ精機 / 鉄工所のIT事業責任者

インタビュー記事

創業98年の感謝と誇りを胸に、伝統に“今”という輝きをのせ、新たな可能性を追求している株式会社サキノ精機。
初代からの技術・歴史を継承しながら時代とともに新しい技術やノウハウを取り入れ、次代を担う会社を目指しているのが、4代目社長・﨑野雄生氏だ。
 “人財”をテーマにリスクと障害に立ち向かいながら、社会に新たな価値を作り出す――。サキノ精機のDNAを受け継ぐ若き社長の新たな挑戦に迫る。

株式会社サキノ精機 事業概要

製造業として以下の4つの事業を展開している。

①産業機械製造事業
主力事業である産業機械製造業は、お客様のニーズに120%対応するため、自社で設計→据付工事までの一貫生産体制を構築し多種多様な要望を幅広く対応。
②金属加工部品製造事業
金属加工部品は、産業機械のパーツとして使用するのみではなく、部品自体のオーダーを受けて製造及び販売。
③産業機械のメンテナンス事業
産業機械の製造にて培った技術を持ってお客様の機械の定期点検及び修繕対応。
④建築金物製造事業
エスキノ事業部を中心に特注品の建築資材を鉄工所ならではの技術力で製造。

■ 売り上げゼロ!入社当初に訪れた最大のピンチ

サキノ精機は、1923年(大正12年)、関東大震災の年に創業した。

当時、神戸・明石エリアで盛んだった造船業と鉄鋼業の流れに乗って「﨑野鉄工所」としてスタートし、そのあと瓦産業にも着手して機械づくりの分野も始めた。

平成3年には、「株式会社サキノ精機」へと社名を変え、現在4代目として代表を務めているのが、39歳の若き社長、﨑野雄生氏だ。

﨑野氏が家業のサキノ精機に入社したのは2009年。その後すぐ、会社は大きなピンチを迎えた。

「私が入社した当時、会社の売り上げが6~7割減って、翌年にはゼロになってしまったのです。さあ、どうしようか……、というところで、入社早々いろんな改革を始めました」

家業のピンチを迎えた﨑野氏がまず始めたのは営業活動だ。みずから先陣を切ってがむしゃらに営業した結果、1年もかからずに落ちていた売り上げを埋めることに成功した。

その後、﨑野氏は設備投資と人材確保に着手した。社員数を3倍に増やしたこと、会社の生産性が安定して売り上げは4倍に上がった。
人材難に苦しむ日本において、﨑野氏がとった方法はシンプルだ。いわゆる、価値を共感してくれた人に声をかけたのだ。

「いろいろな業種の人たちと交流しているなかで、”この人と働きたい”、”この人の力が欲しい”と思う方にお声がけさせていただいていたんです。40~50人くらいです。そうやって日頃から密にコミュニケーションをとっていたので、私に相談しに来てくれるようになって。新しい社員もたくさん増えて、新規事業をどんどん始められるようになりました」

■ 自分を社長にしてほしい” 父の還暦祝いで社長交代

こうして﨑野氏の持つ人柄と熱意によって売り上げが「ゼロ」という大ピンチを乗り越えたサキノ精機だが、その後ほどなくして、会社はターニングポイントを迎える。

2015年、軌道に乗り始めて新たな事業展開を考えていた﨑野氏は父・義就氏にある提案を持ち出した。

「自分を社長にしてほしい」

しかし、父から反対された。

子どもの頃から、私の遊び場は会社だった。毎日学校が終わると、会社に行っていた。鉄の匂いを嗅ぐと、今でも幼い頃の思い出が浮かぶ。

「小さい頃からサキノ精機の社長になることだけしか考えていませんでした。だから、4代目というプレッシャーもありませんでしたし、感覚的に社長になるための必要な情報だけをずっと入れ続けて、ここまできた感じです」

ずっと「サキノ精機の社長になること」を夢見ていた。経営計画書も2012年頃から作って温め続けていた。頭の中で今後の事業プランや方針が具体的に固まっていた。

「父は、会社のすべてのことを把握していたいタイプ。対して私は、社員が自発的に考えて行動してくれるのを嬉しく感じるタイプなんです。私は人に動いてもらうこと(経営)に専念して、職場環境を良くするための改革をしようと思ったんです」

「ほら、私の手、キレイでしょ?(笑)」と笑う﨑野氏は、鉄工所で働いてきた職人ではない。しかし、100年近くにわたって﨑野家が育ててきた会社への思いは誰よりも強い。愛すべき会社をもっと良くしたい――。その思いを父に熱く語った。

1年後、その熱意が父の心を動かす。

「(熱意が伝わった?)そうだと思うんですけどね。私が社長になった日は、ちょうど父の60歳の誕生日でした。還暦祝いで社長を交代しましょうと」

当時、﨑野氏は34歳。4代目として新たな挑戦が始まった。

現在、サキノ精機の社員数は25人。過去に工場長や副工場長を経験してきた人が6人。それぞれ熱い意志や尖った個性のあるスペシャリストが集まっている。

経営計画書には“自由な発想で仕事ができる”ことを大事に掲げている。月1回の勉強会では自分たちが呼びたい講師を社員自ら招くなど、「各々が自分で考えるクセがついてきた」と、﨑野氏は手ごたえを感じている。

「そのおかげか、技術力はどんどん高くなっていますし、ものづくりの品質にも反映されています。弊社では全社員、年に1度は展示会に参加して新しい技術を学んでくるというルールもあるんです。なかなかこの業界では珍しいルールだと思いますが、確実にいい影響を及ぼしていると感じています」

■ 明石地域との業種を超えた連携を活性化

現在、﨑野氏が新たに挑戦している課題が”地域の価値”の向上だ。

サキノ精機のある明石はタコやタイ、海苔といった漁業資源が豊かなエリアだ。

「だから、漁業が盛んなら、本当は漁師さんたちもいい船を手近で手に入れたいと、近くに鉄工所が欲しかったはずです。私はこれまで遠くばかりを見ていて、“地域での需要”を軽視していました」と反省の弁を述べ、漁師の方たちとの新規事業に乗り出した。

「私は地元のみなさんに対して企業価値を高めたいという思いから、漁師さんたちにヒアリングをして、海苔漁のためのアルミの船を作りました」

これまでの漁船はFRPと呼ばれる「ガラス繊維強化プラスチック」で作られたものが主流だ。アルミは鉄より軽くて錆びない。FRPよりも耐久性がある。劣化しないため、たとえぶつかっても「女性の肌が傷つかないくらい」(﨑野氏)、船体の表面が滑らかに仕上がっている。

「例えば、海苔漁の際、海苔の網をまくり上げるのですが、その時に船体の表面に引っかかりがあったら網が引っかかってしまいます。でもうちの船は、なめらかでまったく引っかからない。そうすることで作業効率が上がるわけです。そういうニーズをたくさん吸い上げることができたので、これからもっと売れ筋になっていくと思います」

﨑野氏は「今後も自社の技術を他業種で活かす発想をもっと豊かに持って、地域での業種を超えた連携を活性化させたい」と意気込んでいる。

明石という“地域の価値”をさらに向上させるべく、﨑野氏は都市部から地方に移り住むIターンの受け入れについても前向きだ。

「ウェルカムです! 都心から新しいアイデアを持ってきてくれる方々との出会いも大事にしていきたいです。地方企業の社長はどうしても家族経営になるので、多角経営できないケースが多い。しかし、会社の発展にはいろんな人たちの力が必要です。だから、人との出会いを大事にしたい。私はそこを抜け出したいからたくさんの人を雇っていますし、共感して入社してくれた1人は専務として活躍してくれています。創業98年にして初めて『﨑野』の苗字以外の人が役員になりました」

■ サキノ精機のDNA「人×技術」を大事に挑戦し続ける

サキノ精機のDNAを大事にしながら、多角経営を目指す﨑野氏。その行動力は目を見張るものがある。

最近では、スペシャリストの入社がきっかけで2018年に食品分野にも進出を果たした。食品スライサーの事業を始めたのだ。

コロナによるダメージを受けたが、山梨県に本社を置く菓子メーカー『シャトレーゼ』との取引も始まるなど、期待値の高いスタートが切れたという。

「着手して3年ですが、これからやろうとしているのは、食品機械の業界にIT技術を取り入れること。大手企業の機械のようにIoT化を進めるため、ベンチャー企業と連携して、機械が一生壊れない仕組みを開発中です。実現すれば、業界全体が一変するだろうと期待しています」

 

サキノ精機のDNA――鉄づくりの現場の“困った”から生まれた新事業もある。

その一つが、国から約1000万円の補助金のサポートを受けた、鉄工所を探すプラットフォーム『鉄ログ』だ。

現在開発中の『鉄ログ』は、各地域の鉄工所の機械を1台1台、職人を一人ひとり登録すると、鉄工所の稼働状況や発注の可否をウェブ上でひと目で見ることができ、発注までできるようにするものだ。

入社当時、﨑野氏は機械を作るための部品を見つけることに苦労していた。遠くまで足を運ばなければないケースも多かった。しかし、よく調べてみると近くにある工場を知らなかっただけ、ということが度々あった。部品を注文する際、どの工場が対応してくれるのかも問い合わせてみないとわからない。

「スケジュールが空いている工場を見つけたい」「すぐに部品を注文したい」。ウェブ上で簡単に調べられて、すぐに発注もできるようになれば、みんなが劇的に仕事をしやすくなる、と思ったのがきっかけだった。

「これは本当に“製造業の未来を変えるシステム”になる」と、﨑野氏は語る。

「『鉄ログ』にたくさんの鉄工所が登録してくれると、空いている鉄工所をデータ上で見つけることができます。資金繰りなど何らかの事情で困っている鉄工場だってあるでしょう。でもこの業界には、熟練の技術者だけが持っている、失くしてはならない技術というのがあるんですよ。僕はそういう技術を誰かが受け継がなければいけない、絶やしてはいけないと思い続けているので、このシステムを立ち上げることで、熟練技術を救う一歩にもなると信じています」

『鉄ログ』を通して空きスケジュールなどあらゆる“見える化”が実現することを、﨑野氏は願ってやまない。

「工場の稼働率が上がることで不当に買い叩かれない適正な価格に統一されるので、鉄工所の売り上げが上がる。この好循環を実現することこそが、僕の製造業人生においての使命だと考えています」

2年後の2023年、サキノ精機は創業100周年を迎える。

100周年記念として、”DIY体験カフェ”をオープンし、地元の人たちに”金属に触って加工する”という体験ができる場所を構想している。

「これを機に、もっと地元の人たちに愛される、地元に根差した企業になりたい」と渇望する一方で、サキノ精機への思いを熱く語った。

「私がこれまでずっと大切にしているのは“人財”です。製造業って、人間の技術と最新技術の融合が一番大事なんです。人の技術は1000分の1の仕事はできませんが、機械は1000分の1の仕事ができます。でも、その機械を作れるのはやっぱり人なんです。だから人の技術と最新技術の融合がないと、いいものは絶対生まれないんですよ。だから人と技術を大事にしながら、これからも挑戦していきたいですね」